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特集
2025年05月19日
猫の殺処分ゼロを目指して 県内で広がるTNR活動(2025年05月17日放送)
宮崎県内では年間300匹以上の猫が殺処分されており、全国的には3023年度の1年間で6,899匹もの猫が命を落としている現状があり、その多くが野良猫です。
こうした殺処分をなくすために注目されているのがTNR(Trap-Neuter-Return)という取り組みです。
飼い主のいない猫を捕獲(Trap)に不妊手術(Neuter)を行い元の場所に戻す(Return)ことで、繁殖を抑制し地域猫として見守る活動です。
不妊手術をした「さくら猫」が、地域で幸せに暮らせることが理想とされています。
猫の繁殖力の高さ
TNR活動が重要視される背景には、猫の繁殖力の高さがあります。
猫は年に2~4回の繁殖期があり、交配するとほぼ100%妊娠し、一度の出産で4~8匹の子猫を産みます。
このサイクルを続けると、1匹の雌猫から増える猫は3年後には2,000匹以上になる可能性があるのです。
増え続ける命を止めなければ、地域社会への糞尿被害や鳴き声被害も深刻化し、結果的に保健所への苦情が年間2,600件も寄せられています。
西臼杵郡3町でのTNRプロジェクト
そんな中、西臼杵郡(高千穂、五ヶ瀬、日之影)の三町では、自治体と愛護団体が連携し、地域全体でTNRを推進する「宮崎県山間部TNR地域集中プロジェクト」がスタートしました。
活動を支えるのは、全国でTNR活動を行う財団法人「どうぶつ基金(兵庫)」。手術費はすべてどうぶつ基金が負担します。
調査の結果、三町にはおよそ400匹の未手術の野良猫がいることが確認されました。
プロジェクトでは、1カ月に100匹のペースで手術を進め、4カ月かけてすべての野良猫に手術を行う計画です。
特筆すべきは、移動型手術車両の導入です。
西臼杵郡には野良猫の不妊手術を無料で行える施設がなく、手術を受けるには捕獲した猫を宮崎市まで運ぶ必要がありました。
猫の世話をするボランティアには高齢の方も多く、一度に多くの猫を捕獲し遠くまで運ぶことが難しく、不妊手術がなかなか進まないという現状がありました。
移動型手術車ではは麻酔から手術までを車内で完結できる設備を備えており、動物病院が遠い地域や高齢者が多い地域でも不妊手術を可能にしています。
五ヶ瀬、高千穂、日之影の3町は、それぞれこのTNR事業を予算化し、町を挙げて野良猫の対策に取り組んでいます。
小林市に開院したTNR専門病院
今年4月には、TNRを専門に行う病院「はちどりTNR病院」が開院しました。
小林市の空き家を活用し、地域住民がボランティアで改修。どうぶつ基金の事業に賛同した自治体を通して予約をすれば、無料で不妊手術を受けることができます。
この病院の開設を推進したのは、小林市で野良猫の保護活動を続けてきた寺田千明さんです。
寺田さんは、会社員として働きながら、5年間で1,000匹以上の野良猫の保護に尽力してきました。
きっかけは、ある1匹の猫との出会いでした。
痩せた猫の様子を見て「ご飯をあげたい」と思った瞬間、赤ちゃんが生まれることも考え、手術の必要性を感じたといいます。
「この子にはご飯をあげるけど、あの子にはあげない」という選択はできず、すべての命を平等に感じたことで、保護に取り組むようになったのだそうです。
その後活動を続けていくうちにTNRの必要性を感じた寺田さんは、地域ボランティアの協力を得て、病院の設立に踏み切りました。
現在、行き場のなくなった猫を保護するシェルターも整備中。
手術を担当するのは、鹿児島市内の動物病院院長である浜崎奈央さん。
通常業務の傍ら、ボランティア活動としてTNR手術も積極的に行っています。
病院では2日間で150匹の手術を行うことを目標としていて、県内各地から手術をしていない野良猫を受け入れています。
「一人でも多くの人が理解してくれることで負担が減り、地域全体の猫の命を守れるようになる」と、浜崎さんもその意義を強調しています。
寺田さんは、「活動はTNR一本。"保護はできません"というスタンスでやっている。でも、負傷した子たちに関しては、行政と協力し合いながら、どうにか一匹でも殺処分がないよう、かわいそうに亡くなっていく命をなくしたい」と話します。
目指すは殺処分ゼロ
どうぶつ基金が行う地域集中型プロジェクトは、これまで国富町や宮崎市でも実施され、2年間で6,676匹の不妊手術が行われました。
宮崎動物愛護センターでも、2023年度は891匹の手術を終えていますが、依然として繁殖スピードに追いついていないのが現状です。
「さくら耳」と呼ばれる、手術済みの証である耳カットを持つ猫たちを見かけたら、地域の一員として温かく見守ってほしいと活動者たちは呼びかけています。
専門病院での無料手術の対象となるのは、どうぶつ基金の事業に合意した15の自治体(延岡市・日向市・五ヶ瀬町・高千穂町・日之影町・門川町・美郷町・都農町・木城町・新富町・日南市・都城市・三股町・小林市・国富町)です。手術を受ける際には予約が必要です。
詳しくは各自治体にお問い合わせください。
現在、県では、活動資金を集めるためのクラウドファンディング「ひなたの猫応援プロジェクト」も行われており、さらなる地域拡大を目指しています。小さな命を守り、地域社会と共に共生する未来に向けて、このTNR活動が広がることが期待されています。