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2025年11月24日
全国でクマ被害が多発 ─ なぜ九州では見られないのか?(2025年11月22日放送)
全国でクマによる人的被害が急増し、今年4月から10月末までに197人が被害に遭うという過去最多の数字となりました。
SNSやニュースでもクマの出没情報を見る機会が増え、各地で不安が広がっています。
しかし、宮崎をはじめとする九州ではクマ被害のニュースはほとんど耳にしません。全国と九州では、何が違うのでしょうか。
クマが増え、人を恐れなくなった理由
野生動物の生態を研究する宮崎大学の西田伸教授によると、全国的にクマ被害が増えている背景には複数の要因が重なっているそうです。
- クマの個体数管理の遅れによる増加
- 狩猟者の高齢化で「人を恐れる」という学習が継承されなくなった
- 中山間地域の過疎化で、人の気配が薄れた
本来クマは人を避ける動物ですが、現代では「人慣れしたクマ」が増え、人里まで降りてくるケースが昨年から急増しているといいます。
九州にクマはいない?──2012年"絶滅宣言"
では、なぜ九州ではクマを見かけないのでしょうか。
西田教授によると、九州のツキノワグマは2012年に環境省が絶滅を宣言しています。
九州はクマが好むブナなどの落葉樹が少なく、生息環境が整わないため、古くからクマの個体数が少なかったと考えられています。
江戸末期から明治にかけて九州で50頭ほどクマが捕獲されたと記録が残っていますが、その頃から宮崎にはクマは少なかったと考えられています。
宮崎県で最後にクマが確認されたのは、1957年、大分との県境での捕獲です。
その後、1987年にもツキノワグマが捕獲されましたが、遺伝子調査の結果「本州由来」であり、九州由来のクマではありませんでした。
九州にクマが渡ってくる可能性はある?
近年、山口県でクマのの目撃情報が相次いでいます。
「関門海峡を越えて九州に渡るのでは」という疑問もありますが、西田教授は、「渡れないことはないと思うが、関門海峡は流れが速く、クマが渡るには厳しい環境。過去のDNAを見ても、西日本と九州のクマが交わった証拠はない。」といいます。
長い歴史の中で渡っていないことを踏まえると、移動してくる可能性は極めて低いと考えられています。
一方で深刻化する"イノシシ"被害
クマの心配が少ない九州ですが、代わりに深刻なのがイノシシの被害です。
宮崎県全体では昨年度、イノシシによる農作物への被害額が約1億3000万円に達し、前年比で約30%増加しています。
日之影町では、田畑にイノシシが平然と現れる状況となっています。
2024年の農作物被害額は約470万円にのぼり、農家にとって大きな問題です。
長年にわたり駆除に携わる日之影町の田中弘道さんは、「昔は見なかった場所でも、今は普通に歩いている。高齢化で狩猟者が減り、昔のように巻き狩りができなくなったことも増加の原因」といいます。
田中さんは年間約150頭を捕獲していますが、「一匹ずつ確実に捕獲していくしかない」と話します。
イノシシと遭遇したときの対処法
もしイノシシと遭遇した場合は、次のポイントを守ることが重要です。
イノシシは突進してくる危険があるため、冷静な行動が命を守ります。
- 大声を出したり、背中を向けて走ったりしない
- ゆっくり後退し、建物や物陰に避難する
- 近づかず、刺激しない
変わりゆく自然と地域社会
クマやイノシシをめぐる問題は、高齢化・過疎化・狩猟文化の衰退など、地域社会の変化と深く結びついています。
人と自然のバランスが大きく変わり始めている今、私たちは改めて地域の現状に目を向ける必要があります。





