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2020年05月25日
高千穂町 土呂久ヒ素公害 100年(2020年05月23日放送)
大分県との県境にある豊かな自然に包まれた人口およそ70人の集落「宮崎県高千穂町土呂久」。
昔、山深いこの里は鉱山で栄え、東京から最新の映画が届く映画館までありました。
しかし、その賑わいの影で密かに病が広がっていました。
その原因は、「ヒ素」でした。
100年前、鉱山で始まった亜ヒ酸の生産で、猛毒のヒ素が住民の体をむしばみました。「慢性ヒ素中毒症」です。
昭和40年代、日本が公害列島と呼ばれた時代に正当な「補償」を求めて、一部の住民は裁判へと突き進んでいきました。
山間の小さな集落で発生した公害は住民の心に歪みを生み出しました。
「風評被害があった。当事者ではないと絶対にわからない。」と、佐藤元生さんは話します。
土呂久は今、自然に抱かれ穏やかな姿を見せています。
この地で一体何があったのか、100年記憶を紡いだ時、山で生きる優しくも強い人々の姿が浮かび上がります。
今年は1920年に亜ヒ酸の生産が開始され、公害が明らかになって50年目の節目の年。
UMKではかつて公害が発生した高千穂土呂久の歴史に焦点をあて、過去50年分のアーカイブ映像と四季折々の山里の風景から土呂久の歩みを描くドキュメンタリー番組を制作しました。
慢性ヒ素中毒症
この病気はまだ終わっていない、過去の病気とは言えないのです。
慢性ヒ素中毒の認定患者はこれまでに住民や元鉱山労働者ほど合わせて207人。
このうち164人が死亡しています。(※2020年5月22日現在)
また慢性ヒ素中毒症はヒ素を吸収することがなくなっても、数十年後に症状が現れることがあります。
高齢となった住民が、新たな認定患者になるということもあります。
山間に穏やかな自然が蘇っても、亜ヒ酸の生産が地域には大きな爪痕となって残っているのです。
この土呂久の経験は、今、東南アジアの国々で生かされています。
インド、バングラデッシュ、ミャンマーはもともと土壌のヒ素濃度が高く、井戸水を飲むことでヒ素を摂取してしまうことがあります。
2017年に宮崎大学がミャンマーで行った住民検診では、土呂久で蓄積されたおよそ50年の検診データが東南アジアの人々のヒ素中毒の診断に生かされています。
また、土呂久の公害と向き合う中で得た知識や経験と言うのは検診だけではなく、安全な水を飲むためのシステムにも生かされています。
- 【報道部 雪丸千彩子記者が取材を通して感じたこと】
公害の根底にあるは、「経済追及による地方へのしわ寄せ」ではないだろうか。
福島第一原発の廃棄物処理問題や海洋プラスチック「ごみ」問題など、国の内外を問わずに現代社会に通じている。
土呂久の歩んだ歴史を知ってもらうことが未来へつながっていくのではないかと思う。
テレビ宮﨑開局50周年 ドキュメンタリー 山峡に咲く~土呂久100年の記憶~
2020年5月26日(火)
午後8時~ 放送