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「手を抜く、つながる、頼る」重度認知症の母を介護して12年、娘がたどり着いた境地
2026年10月01日

宮崎県日向市で、重度の認知症の母を自宅で介護する女性がいる。診断から12年。先が見えない不安や葛藤、時には涙を流しながらも、現在は「スキンシップ」と「笑顔」を大切に穏やかな日常を重ねている。「1人で抱え込まない」と語る女性の歩みから、介護に向き合うヒントと希望を見つめる。
【動画】重度認知症の母を介護して12年、娘がたどり着いた境地
重度の認知症と向き合う日々
現在、宮崎県内には65歳以上の認知症高齢者が約62000人いるとされており、今後5人に1人の割合となる見込みだ。介護を担う家族は、誰にも相談できない孤独や先行きのみえない不安から、心身ともに負担を抱えているという現状がある。

宮崎県日向市で2人で暮らしている月原美由紀さん(47)と母の順子さん(77)。順子さんは認知症だ。順子さんの食事や身の回りの世話をしている美由紀さんは、朝、「ご飯食べよう。起きる?」と優しく声をかけ、順子さんを起こす。

そして、ハグをして、頬にキスをするのが2人の朝のルーティンになっている。
順子さんは、認知機能を測るテスト(MMSE)は30点中0点。重度の認知症で、会話のキャッチボールはほとんどできないという。

月原美由紀さん:
母は以前はすごくおしゃべりで、いつも1人でしゃべっていた。カラオケに行ったり踊りをしたり、「チンドン屋してくるわ」と出かけたり、すごく派手な人だった。
今から12年前、順子さんはアルツハイマー型認知症と診断された。脳の萎縮などが原因で記憶力や理解力が低下していく進行性の脳の病気だ。根本的な治療法はまだない。

当時35歳だった美由紀さんは、母が66歳、もうすぐ67歳という若さで発症した現実を想像もしておらず、「先が見えない不安から、3カ月、夜な夜な泣いていた」と当時を振り返り、涙を流す。
「介護日記」に記された葛藤の日々
診断を受けてから現在に至るまで、順子さんは日中はデイケアやデイサービスを利用し、美由紀さんは自宅で仕事をしながら支えてきた。

認知症になって今年で12年。介護の道のりは決して平たんではなかった。
診断された日からの2年間を綴った「介護日記」には、当時のことが記されている。
・「洗濯しないで」と言って5分後には洗濯していた(涙)
・お風呂に入っていてシャワーが熱いといいながら、50℃くらいのお湯を体にあてていた。
・帰ったら居なかった(22:30)、24:00くらいまでは起きていたが、帰ってこなかった。
月原美由紀さん:
「そのころは私が笑わせようとしても常に険しい顔で、苦しいんだろうなと。何をどう伝えていいかも分からなかったんだと思う。夜中に1人で出ていくこともあったし、一番大変な時期だった。
また美由紀さん自身も思うようにいかない日々を過ごしていた。
「介護日記」には・・・
・ちゃんと相手をせずに部屋に上がってしまった。悪いことしたな。すごく反省してる。お母さんにとっては久しぶりに話す相手かもしれなかったのに。
・最近、私に余裕がなくて笑って接することができない。申し訳ない。
・夕飯のときにちょっと怒ったら食事をやめてしまった。怒らないようにしなきゃ(泣)
それでも、「一番つらいのは母本人だよね。自分に置き換えたときに苦しいよねって思った」と美由紀さんは振り返る。「母が一番過ごしやすい環境を作ればいいんだ」という思いから、母をもっと理解するために介護の勉強をスタート。
認知症ケア指導管理士や認知症ライフパートナー、介護職員初任者研修、介護助手など4種類の資格を取得した。

月原美由紀さん:
(日々大切にしていることは)やっぱりスキンシップ。たくさん触れ合って、常に笑顔で接するようにしている。今は、この何年かは楽しい。
SNSや講演で体験を発信
美由紀さんは6年前から、自身の介護を通して得た工夫や気づきをSNSで発信し始めた。
『認知症介護のリアル【つきちゃんねる】』動画のテーマは「手を抜く」「つながる」「人を頼る」だ。

月原美由紀さん:
私が1人で365日24時間やっていたら、この12年は成り立たない。施設の職員さんもいて、地域の方々がいて、認知症の人と家族の会という仲間がいて、そこでお話をすることによって成り立っている。
みんなで積み重ねてきた12年間。今の順子さんの姿は、周囲から見たら特別だという。

順子さんの主治医 二宮嘉正医師:
検査でも重度の認知症。検査上で言えば、いつ寝たきりになっても、いつ食事が食べられなくなってもおかしくない状況なのに、今、歩行はちゃんとできる、食事も自分で食べられる。これはすごいこと。順子さんが元気に穏やかに家で暮らしているというのは、みんなの希望になると思う。
9月20日、自らの経験を伝える講演会が開かれた。

月原美由紀さん:
病院や施設の職員の方々と信頼関係を積み重ねておくことが大事。そうすることで家族も本人もきつい時期を一緒に乗り越えられる。人を頼るということを持ち帰っていただけたら...
参加者の男性から質問:
頼るというのは、誰に頼ったらいいのかな?
月原美由紀さん:
要はケアマネさんなんですよね。・・・っていう動画を出したらコメント欄に「そんな立派なケアマネばっかりじゃない」って言われて、「まあ、そうだよな」って思いながら・・・。本人が落ち着く環境を作るためには、本人との相性が一番なんですよね。

講演後、参加者の男性は:
今から8年ほど前に妻がアルツハイマー型認知症という診断を受けました。悩んだり辛かったりするけど、自分1人で抱え込まないで、ケアマネジャーさんや相談できる方に相談していこうと強く思いました。
一人で抱え込まない選択を
全国の認知症患者は440万人以上。9月21日「世界アルツハイマーデー」では、認知症への理解と支援の輪が広がることを願い、世界各地で認知症のシンボルカラー・オレンジ色に建物をライトアップ。

取材の最後に、美由紀さんは「今のまんま、お互いに笑顔で毎日過ごせたらいいかなと。それが誰かの希望になれたらいいかなっていうふうに思います」と笑顔を見せた。
認知症に対する世間のイメージは、かつては「色んなことができなくなっていってしまって、つらくて大変」というネガティブなものが強かった。しかし、月原さん親子のように、できることを一緒に楽しんで前向きに暮らす姿は、新しい生き方として多くの人に勇気を与えている。
厚生労働省が掲げる「新しい認知症観」。認知症になっても、できることややりたいことを大切に、自分らしく暮らし続けるという考え方だ。12年間、支え合いながら暮らしてきた月原さん親子の姿は、「新しい認知症観」の一つの形なのかもしれない。
介護する家族の状況や認知症の方の進行具合は様々だ。県内には「認知症の人と家族の会」があり、同じ立場の人と経験を共有したり、必要な支援につないだりすることができる。1人で抱え込まず、誰かに相談することも介護を支える大きな力となっていく。










