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江戸時代の大地震で「事前避難」が行われていた!?幕末儒学者の家系図から得た新たな研究成果を論文に 専門家「南海トラフでも事前避難が重要」

2025年11月15日

江戸時代に日向灘で発生した「外所(とんところ)地震」は、宮崎県内に甚大な被害をもたらしたが、その規模の割に死者数は少なかったと考えられている。その謎について宮崎公立大学の山下裕亮准教授が論文を発表した。幕末の儒学者の家系図の記述から、地震の前夜に「前震」があった可能性に着目し、「事前避難ができていたのでは」と推察。南海トラフ地震など将来の巨大地震でも「事前避難が重要」と呼び掛ける。

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「外所(とんところ)地震」とは

今から363年前の1662年9月20日、日向灘を震源とする巨大地震「外所(とんところ)地震」が発生した。この地震は宮崎県の沿岸部に甚大な被害をもたらし、津波の爪痕は供養碑として今も残されている。しかし、地震の発生メカニズムや詳細な被害状況は、未だ多くの謎に包まれている。

宮崎公立大学の山下裕亮准教授は、この「外所地震」の研究を進めてきた。その中で、幕末の儒学者・安井息軒(やすいそっけん)の家系が伝えてきた教訓に着目。研究成果を発表し、論文は9月に日本地震学会の学術誌に掲載された。

宮崎公立大学 山下裕亮准教授:
地震自体のことがそもそもよく分かっていなかったので研究を始めたわけだが、その中で死者数が、実は一番被害がひどかった飫肥藩でも15人しかない。これが「少ないな」というのが一番最初の疑問。

山下准教授が続ける。「もし今の時代に同じ規模の地震が起きたら被害はどれくらいか、簡単には想定できないが、15人では絶対に済まないと思う」363年前の地震による飫肥藩の死者が15人にとどまっていることが不思議だという。

江戸時代の文献から読み解く被害と教訓

宮崎市清武町は幕末の儒学者・安井息軒の出身地だ。その偉業を伝える安井息軒記念館を訪ねた。

みせてもらったのは、安井家の家系図。

安井息軒記念館 伊東但館長:
今回話題になっている部分は、この朝恒さんという代の記録の中で、安井息軒先生よりも5代前の方になる。

安井息軒記念館 伊東但館長:
「寛文2年9月19日夜より大きな地震があった」と。この地震があった夜、当時、内海にいた朝恒さんの奥さんのお母さんが、津波から避難した山の上で実は臨月を迎えていて、朝恒さんの奥さんが産まれた。という記述がこの中に書かれている。

山下さんが注目したのは、この「ヨリ」という記述だ。
19日の夜から「前震」と見られる地震が起きていたのではないかと推察した。

宮崎公立大学 山下裕亮准教授:
「19日に地震があった」だったらよくある話だが、「19日夜より地震があった」というのが気になった。もしこれが前震の記述だと解釈すれば、大きな津波が来る前に皆さん前震で避難をしていたと。そう考えると、朝恒さんの奥さんのお母さんが地震の中で出産ができたというところにもつじつまがあうのではないかなと。

内海地区には「鯛」の名がついた池がある

朝恒の妻の母親が住んでいて、津波が押し寄せたとされる宮崎市内海地区を訪ねた。

山下准教授は、「海の方から上流の方に津波が遡上して、上流にあるプールのようになっているところまで津波が上がっていった。」と説明した。

当時、内海地区では、タイがよく取れていたという。タイも津波と一緒に遡上したとみられ、地名として残っている。

宮崎公立大学 山下裕亮准教授:
外所地震の時に、内海地区で避難してきた人たちが、そこに残ったタイを食べて、飢えをしのいだという言い伝えがあって、プールになっているような場所に「鯛取淵」という名前がついていたりする。

外所地震が発生した日、朝恒の妻の母親がどこに避難をしていたかは分かっていない。

しかし、安井家の家系図の記述や「鯛取淵」という地名などから、内海地区には津波が来ていたと立証できるという。

宮崎公立大学 山下裕亮准教授:
過去に日向灘で、偶然ですけど、事前避難をして命が助かったという方々がいたんだと。外所地震の時にそういったことが起こった可能性があったんだということを、ぜひ今回知っていただけるといいなと。

9月19日に「前震」があったことで、外所地震の「本震」の前に避難することができていたのではという推察ができた。この歴史から私たちが学ぶこととは。

宮崎公立大学 山下裕亮准教授:
実は「事前避難」という言葉はそもそも皆さん方ご存じない方が多い。南海トラフ地震が起こった時に、いわゆる「半割れ」が起こった時には事前避難をして欲しい。次に起こる地震の前に、実際にそんなことをやったことは未だかつてない。一発勝負だが、外所地震の時に事前避難をしたことで命が助かった方がたくさんいたという事実は、やはり可能性として非常に大きなものだなというふうに思っている。

幕末の儒学者の家系図に記された歴史が、事前に逃げること、津波からすぐに逃げることの大切さを教えてくれている。

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