番組表
右手のピアニスト・押川憧子さん 神楽をモチーフに右手のための曲に
2026年06月24日 18時20分
突然の病で左手が動かなくなり、右手だけのピアニストとして歩む宮崎市出身の女性がいます。同じ悩みを持つ誰かの光になりたいと、右手のためのピアノ曲づくりに挑んでいます。
右手だけを使って、力強いメロディを奏でるピアニストがいます。宮崎市出身の押川憧子さん25歳です。6歳から本格的にピアノを始めた押川さんは、数々のコンクールで入賞。東京音楽大学に進学し、プロのピアニストを目指していました。
しかし、大学4年生の秋、突然の試練が襲います。
脳からの指令がうまく伝わらず左手が思い通りに動かなくなる「局所性ジストニア」と診断されました。
(押川憧子さん)
「ショックで、これからどうしていこうと思うと、すごい悲しかったし。ずっと泣いていた」
失意の中にいた押川さんが出会ったのが、片手のために作られたピアノ曲でした。両手とは違った魅力にのめりこみ、演奏を再開した押川さんは、去年、左手のピアノ国際コンクールに出場。右手での演奏にも関わらず、見事1位に輝きました。
(押川憧子さん)
「(片手だと)一対一で語りかけているみたいな音楽になる」
押川さんは、「自分と同じ境遇の人に、片手音楽の魅力を知ってほしい」と、大学院へ進み研究を始めました。しかし、右手用に作られたピアノ曲は、左手に比べてほとんどありません。そこで押川さんは右手のための曲を自ら作ることを決断します。
新しい曲のテーマに選んだのは、先祖が舞っていたという「神楽」です。押川さんは今月、高千穂神社を訪れて、実際に神楽を見学しました。
(押川憧子さん)
「活気にあふれていて、温かい空間だった印象をもったので、演奏にも温かみを出せていけたら」
現地で感じた伝統の息吹は、右手だけで演奏するからこそ生きる音楽の可能性につながりました。
(押川憧子さん)
「高音域は煌びやかさや華やかさなど、装飾性が表現できる。だから、笛や鈴の音はあってるんじゃないか」
さらに神楽を調べる中で、宮崎を代表する画家・弥勒祐徳さんの絵に出会いました。おととし105歳で亡くなった弥勒さんは、神楽や郷土の風景など、生涯を通して情熱的な絵を描き続けました。
(押川憧子さん)
「ゴッホ的な温かみがある絵だなという感覚で、人がたくさんいてにぎわっている、でも暗闇。でも明るい絵もあるというのが不思議で」
押川さんの感性と弥勒さんの作品を元に作曲を手掛けるのは、同じ大学院を修了した先輩で作曲家の我妻英さんです。打ち合わせを重ねる中で、我妻さんは押川さんと弥勒さんに、共通する魅力を感じています。
(作曲家我妻英さん)
「筆の躍動感と、右手一本でスケール大きくうねるように表現するところが自分の中で重なるイメージがあって、押川さんの演奏にはそういう一種の躍動感、うねるような大きなスケールの表現がある」
今年4月から始まった曲作り。夜神楽の始まりを表現した序章の構想が出来上がりつつあります。曲の始まりは、右手全体を使って低い音を一気に押し込み、夜の深い暗闇を表現します。指先ではなく手のひらで鍵盤を押さえることで、手への負担を減らすというアイデアです。
故郷への思いを乗せた新しい曲は、今年8月25日、宮崎市のオルブライトホールで
開かれる演奏会で、初めて披露されます。
(押川憧子さん)
「自分が救われたので、右手の作品を作ることで、/左手が不自由になった人が右手の曲を見つけて弾いてくれたらうれしい。音楽を通して(宮崎に)恩返しできたらなと思って頑張って準備してまいりたい」
救ってくれた片手の音楽で、同じ悩みを持つ誰かの光になりたい。押川さんはこの夏、故郷のステージから新しい一歩を踏み出します。










